村民インタビュー企画「世界遺産の村に住む私たち―村の観光について感じていること。」

世界遺産・白川郷。

その美しさの裏で、住民たちは観光客の増加による問題に苦悩しています。

美しい風景と伝統を守りたい。そんな住民たちの願いと直面する現実。

白川郷に住む人々の素顔と、村の未来への想いを紹介します。

村民インタビュー企画「世界遺産の村に住む私たち―村の観光について感じていること。」

①いつまでも残したい白川郷の魅力 / エガオヤカフェ・大溝琴さん

■村の魅力と課題とは?

- 白川郷の魅力は、やはり、この美しい自然環境と人々の温かさですね。特に、朝の合掌造りの屋根から立ち上る湯気は格別です。まるで、村全体が「生きている」ように感じます。

- 観光客が増えることは嬉しいことですが、マナーの問題が気になりますね。トイレの利用方法については文化の違いもあって悩ましいです。

- また、集落にはゴミ箱が置いてありません。白川郷のマナーとしてゴミの持ち帰りをお願いしています。でも、集落内の他のお店で買ったもののゴミについては、「うちのお店のゴミを他の店で捨ててくれることもきっとあるから」と思い、引き受けています。他のお店も同じです。お互いに助け合うのが白川郷の風土ですから。ゴミの持ち帰りのマナーは、もっと知ってもらいたいですね。


■交通事情や渋滞については?

- 一度渋滞が発生したら本当に深刻です。以前、自宅に忘れ物を取りに戻った際、行きはスムーズだったのに、帰りは大渋滞に巻き込まれてしまい、とても時間がかかってしまいました。

- また、観光客の受け入れ(※駐車場の利用時間)が17時までだと知らない方も多いようで、午後に渋滞していてもまだ駐車場に並ぶ車もいます。村の観光を楽しんでいただくために、事前に情報を収集しておくことをお勧めします。


■白川郷をより楽しんでいただくためには?

- ぜひ、白川郷に泊まってほしいです。朝の景色は本当に幻想的で美しい。名古屋方面から北上して来られる際には、荘川ICから白川郷へ向かうルートがおすすめ。渋滞が少ないんです。ダムの景色もきれいですよ~!


★お店情報

エガオヤカフェ(人気商品: 白川村産米粉のバームクーヘンなど)

営業時間: 10時~17時(不定休)

②世界遺産集落の伝統と文化を守るために / 和田家館長・和田正人さん

■自宅の合掌造り家屋を公開している和田さんから見た観光客のマナーは?

- 本当はやりたくなかったのですが、最近、襖の前や囲炉裏の周り、仏壇前に進入禁止の柵を作りました。襖にもたれかかって座ったり、仏壇に子供を座らせて写真を撮ったり、囲炉裏に足を突っ込んで家の中を歩いてしまう人など、日本人の常識では考えられないことが起きてしまったからです。中には、靴のまま家に上がり込もうとする人もいて、注意したら、『ビニール袋を靴にかぶせたからいいだろう』と言われたこともありました。日本の文化やルールは、そう簡単に理解してもらえないのが現状です。

- また、雪のない地域から来た人たちの「雪の上で遊びたくなる」気持ちはよく分かります。ですが、自宅の裏庭に入ってきて雪だるまを作ったり、新雪がきれいな田んぼで遊んで踏み固められたりしてしまうのは困ります。残念ながら、ロープなどで立ち入りを制限せざるを得ない状況となってしまい、心苦しく思っております。

- 集落内での喫煙は深刻な問題です。合掌造り家屋はとても火に弱い建物です。集落内は禁煙となっていることを伝えてもやめようとしない人がいて、トラブルになることがありました。


■どうしたら外国人観光客にマナーが伝わると思いますか?

- インバウンドを誘致する際には、日本の文化やマナーを伝える取組みも同時に実施すべきだと思います。例えば、日本のマナーを知ってもらってから日本に入国する仕組みなどです。

- 村が世界遺産になった当初、世界遺産白川郷合掌造り保存財団が作成したマナービデオ(※日本人向け)をバスの中で流してもらったところ、効果が大きかったと聞いています。観光地に着く前にマナーを伝えることが必要だと感じています。


■これから村に訪れる方へ

- 私は、世界遺産集落の中で生活しています。来てくださるお客様に感謝しつつ、この伝統や文化を伝えたいんです。しかし、観光客が殺到しすぎて、静かな白川郷の魅力を伝えられないのは寂しいです。人がいない静かな白川郷を楽しむために、ぜひ民宿に宿泊してみてほしいです。早朝に展望台に行ったり、雪明りが幻想的な冬の夜道を散歩したりすることをおすすめします。蛍が舞う夏の夜や満天の星空なども本当に素晴らしいですから。


★施設情報

和田家

入館時間 9時~17時

入館料 13歳以上400円、6歳~12歳200円、5歳未満無料。

③安心な暮らしと観光のために大切なこと / SOUTH SIDE CAFE・清水朋恵さん

■観光客が多い環境での生活は?

- 以前は、子どもをベビーカーに乗せて安心して散歩できたのですが、今は人が増えて混雑しているので、お散歩のコースを変えるようになりました。

- また、外国人観光客の問題行動が目立つようになってきたと感じています。私は英語で声をかけることができますが、思いを伝えられず我慢している村民の方も多いんですよ。集落がテーマパークで合掌造り家屋が展示されている場所だと勘違いされてしまうのか、私有地なのに立ち入れる場所だと思っている観光客が多いようです・・・。

- アスファルトで舗装されている道が公道で、砂利道や庭は私有地。そこにロープを張ったり、赤いカラーコーンを置けば立ち入り禁止とわかるのでしょうが、景観を損ねるので、やらない村人がほとんどです。景観に配慮した小さな看板も設置されていますが、気づかない人もいらっしゃいますね。


■生活への影響は?

- 以前は、保育園に子供を迎えに行く際、10分前に家を出れば間に合いましたが、今は30分前に出ないと間に合わないなど、影響が出てきました。世界遺産集落内では観光車両の侵入をご遠慮いただいていますが、歩行者天国ではありません。村民の生活道路なので車が通ります。でも、村民は暗黙のルールで(観光客が車道を歩いていても)クラクションを鳴らさないようにしています。散策を楽しんでいる雰囲気を壊さないための気配りです。観光客は車に気づかず、道路いっぱいに広がって歩いていて危険なこともありますね。


■どんな行動が大切でしょうか?

- 世界中から多くの観光客が村に来てくださっています。みなさんが、それぞれの言語で白川郷の魅力だけでなく、マナーについても発信してくれたら嬉しいですね。そのために私たちは、観光客との交流をもっと深めることが大切だと思います。人口約1500人の村民だけの発信力では限界があります。観光客の皆さんの力を借りて白川郷の魅力とマナーを世界中に広めてもらうことが大切だと私は思います。


★お店情報

SOUTH SIDE CAFE(人気商品:濃厚ラテ、飛騨牛ミートパイ、合掌ティラミス)

不定期営業中

④白川郷の自然と文化を深く知る旅へ / 「野外博物館 合掌造り民家園」園長・加藤春喜さん

■白川村に住んで20年になるそうですね。移住先に白川村を選んだ理由は何ですか?

- 自然豊かな場所で暮らしたいと思ってね。日本は自然との付き合い方がとても上手な文化を持ってるでしょ。その中でも特に白川郷はその象徴のような場所だと感じたんですよ。

- でも、美しい風景の裏側には、観光客増加による様々な問題も出てきた。週末は、渋滞が発生するようになってきて施設内の食事処の予約を中止せざるを得ない。時間通りに来ることが難しいからね。お弁当の配送も、週末の渋滞のためにできなくなってしまった。集落にはゴミ箱を置いていなくて観光客の皆さんにゴミの持ち帰りをお願いしているんだけど、村外のコンビニやカフェで買ったゴミが放置されていることが目立つようになってきた。悩ましい問題です。


■みなさんに伝えたいことやアドバイスは?

- 事前の情報収集が旅の質を変える。予備知識があればもっと深くこの村を味わえる。何も調べずに来てしまったら、そのズレがマナー違反をしてしまうことになってお互いにがっかりするのではないかな。

- 名古屋方面から来る方は、荘川ICで降りて、御母衣ダムや旧遠山家住宅などを観光するルートがおすすめ。北陸方面から来る方は、6月から11月上旬までの利用となるけど、白山白川郷ホワイトロードを利用するルートも候補に。車窓からの景観が素晴らしいルートですね。


■合掌造り民家園は県の重要文化財指定の建物も多く、野外博物館(Open Air Museum)として外国の方にも人気です。白川郷を学べる博物館を運営する上での思いは?

- 合掌造り民家園では、保全のために入場料をいただいているのですが、高すぎるという声と、もっと高くしてもよいという応援の声もあって悩ましいですね。

- 施設の魅力を上げるため、体験型のプログラムを増やしたいなと思案中です。合掌造り民家園の春夏秋冬の景色は素晴らしいです。ただ見学するだけでなく、移築された建物とはいえ、離村により使われなくなった実際の合掌造りの家屋で昔の生活を体験したり、伝統工芸に触れたり、村の文化をより深く理解できる場所にしたいですね。


★施設情報

野外博物館 合掌造り民家園

営業時間:3月~11月 8:40~17:00、12月~2月 9:00~16:00

休園日:4月~11月 無休、12月~3月 木曜日定休(祝日の場合は前日休)

入園料:大人 600円、小人 400円 ※団体等各種割引あり

⑤白川郷の未来へ向けてご協力を / 世界遺産白川郷合掌造り保存財団 山田雅彦さん

■村の魅力と課題とは?

- 白川郷には、『結(ゆい)の精神』という、助け合いの精神が根付いています。これは、先祖から受け継いできた大切なものです。

- 子どもの頃から、地域の皆で合掌造りの屋根を葺き替えたりする経験を通して、その精神を学びました。私の同級生の半数以上が故郷に戻ってくるのも、この村の魅力が大きいからだと思います。

- しかし、観光客の増加に伴い、村の生活にも変化が生じています。観光のおかげで村が活気づくのは嬉しいことですが、一方で、大渋滞による生活の不便や、観光客の問題行動(マナー違反)によるトラブルが増えてきたことは悲しいことです。特に、駐車場の閉鎖時間になっても車を置いたまま散策したり、ゴミをポイ捨てする行為には戸惑っています。


■観光客の方に知っておいてほしいことは?

- 白川郷は、私たちが大切に守り続けてきた場所です。観光に関係なく静かに暮らしている人もいます。観光を楽しむ際は、村のマナー(白川郷ルール)を知っていただいたうえで、住民への配慮をお願いします。そして、白川郷の歴史や文化にぜひ興味を持っていただきたいですね。


■白川郷の未来へ向けて

- 100年先も、この美しい合掌造りの集落を子どもたちや孫の世代以降もずっと引き継いでいきたいです。そのためには、観光客のマナー向上はもちろん、私たち住民も、観光客とのコミュニケーションを図りながら生活と観光の調和についてもっと考える必要があります。例えば、地元の人と交流しながら村の歴史や文化を学べるような機会が増えるといいですよね。

- みなさんも白川郷を訪れる際は、ぜひ、私たちの生活や文化について理解を深めてください。そうすることで、より一層、白川郷の魅力を感じていただけると思います。そして、この美しい村を未来へと繋いでいくために、村の暮らしと私たちの思いに共感してくださる方々のお越しを心から歓迎します!

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